2026年、高齢者虐待防止法の施行から20年が経ちました。この間、社会は大きく変化し、特別養護老人ホームを取り巻く環境も複雑さを増しています。厚生労働省が毎年公表する調査結果では、残念ながら高齢者介護施設における虐待件数は増加傾向にあり、市民の信頼が揺らぎつつある現状が見えてきます。
特別養護老人ホームは、老後の人生を安心して託す「最後の砦」です。だからこそ、そこで暮らす方々の基本的人権が確実に守られ、尊厳が保障される仕組みが不可欠です。しかし、認知症の方やターミナル期の方が増える一方で、単身世帯や家族の支援が得られないケースも増え、施設はどうしても閉鎖的・密室化しやすい構造を抱えています。
教育や研修の強化、虐待防止委員会の設置など、これまでの取り組みは一定の成果を上げてきました。実際、職員からの相談や通報が増えていることは、意識の向上を示す重要なサインです。しかし、それだけでは虐待を未然に防ぐには限界が見え始めています。今こそ、より抜本的な仕組みの再構築が必要です。
第三者評価の義務化という選択肢
私が特に重要だと考えているのは、介護保険施設である特別養護老人ホーム(社会福祉法人など特定の法人が運営する施設)や認知症グループホームに対する 認証取得あるいは施設評価の受審義務化 です。中でも社会福祉法78条に基づく自己評価は、外部の専門家が施設の運営状況を客観的に評価する仕組みであり、透明性の確保に大きく寄与します。2006年には国が福祉サービス第三者評価の体制を整備して実施していますが、実施率は20年経過していても令和6年度で4.82%(うち、東京都が約67%を占める)で低迷しています。
虐待が認定された施設に対しては、再発防止策として受審を義務付けることも有効でしょう。国が推進する福祉サービス第三者評価だけでなく、官民連携による多様な評価体制を整えることで、より実効性の高い仕組みが構築できます。Uビジョン研究所が行っている認証審査の調査内容も、虐待防止にどれだけ効果を発揮しているか、実績をもとに評価していただければと願っています。
組織風土の改善なくして、虐待防止は成り立たない
虐待の背景には、個人の資質だけでなく、組織風土や職場環境が深く関わっています。
認知症ケアやターミナルケアは、職員にとって精神的負担が大きく、孤立した状況では判断を誤りやすくなります。だからこそ、経営者は「安心して介護ができる職場」をつくる責務があります。
その鍵となるのが チームケア です。
カンファレンスを単なる情報共有の場ではなく、職員が悩みや戸惑いを率直に話せる「安心の場」にすること。利用者の介護拒否やハラスメント、業務量への不満など、どんなことでも相談できる雰囲気をつくること。課題をチームで議論し、解決策を共に考え、実行していく体制を整えること。
「1人で頑張らない、頑張らせない」
この姿勢こそが、虐待を防ぐ最も確実な土台になります。
また、職員のストレスは仕事だけから生まれるものではありません。プライベートの悩みを抱えたまま働く人もいます。互いに助け合い、共感し合える組織風土があれば、職員はより健全に働くことができると思います。
「被害者にしない」「加害者にしない」社会へ
虐待防止の本質は、誰も被害者にも加害者にもさせない社会をつくることです。
処分を目的とするのではなく、人材育成を軸にした組織づくりこそが、持続可能な介護の未来を支えます。
Uビジョン研究所は、これからも施設の透明性向上と組織風土の改善に寄与する取り組みを進めてまいります。高齢者が尊厳をもって暮らせる社会を実現するために、市民と共に歩み続けたいと思います。